ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「祖父の代で店が大きくなったのも、祖母の力が原因だった。ドレスに『魅了チャーム』の力が宿って、着た人をより魅力的に見せることができるようになり、貴族の間で評判になった」

「あ、でも、父まではその力を利用していたけれど、アッシュは使っていないからね。アッシュが着た人の魅力を引き出すドレスを作れたのは、正真正銘アッシュの力だよ」

「そんなの、言われなくてもわかってる!」

「ケイト?」

 怒りながら叫んだ私を見て、アッシュが悲しげな顔になった。

「やはり、淫魔だなんて、嫌か?」

「違いますっ! わりとそのことはどうでもいいです! 自分でもびっくりだけど……」

 もともと、常人を逸した美貌の持ち主だし、淫魔としての能力がなくてもアッシュに魅了されているわけだし、本当にそんなことは関係なかった。

「じゃあなんで、そんなに怒っている?」

「内緒にされていたことを、ですよ……。もし最初の日に打ち明けられていても、『異世界だからそうなのか』って普通に受け入れていたと思うのに」

 三人が揃って、しゅん、という顔になった。

「ごめんなさいね。淫魔ってね、どうしてもこう、エロティックなイメージとか、生気を吸いとる物騒な先入観があってね……。客商売だから知られるわけにはいかなかったのよ。祖母も、まわりには秘密にしていたわ」

「そもそも魔法種族自体、めったに人間とは関わらないものだしねえ。ケイトも役場で聞いたでしょ? エルフのこととか」

「うん……。でもそれならどうして、おばあさまはおじいさまと結婚したんだろう?」

 素朴な疑問に首をひねった、そのとき――。

「その疑問には、私がお答えするわ」

 聞き覚えのある声が、入り口の方角から聞こえた。

 振り返ると、なつかしい、私の勤めていたショップの服を着た女性がそこに立っていた。

 年齢不詳の美貌、妖艶な笑顔。この世界に飛ばされた日の最後に接客した、あの――。