ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「……ケイト、聞こえちゃった?」

「どこから、どこまで?」

 クラレットとセピアの問いかけに、「たぶん、大事なところはぜんぶ」と答える。

 アッシュは、眉間を指で押さえながら沈黙していた。

「聞いちゃって、ごめん。インマって、何?」

 響き的に、なんだか嫌な字面しか予想ができないのだけど。

「こんなタイミングで話すことになって申し訳ない。もうわかっていると思うが、俺たちは普通の人間じゃない」

 三人がかりでのドッキリかと思ったけれど、そうではないみたい。アッシュの硬い表情が、この話が嘘ではないことを物語っている。

「僕たちのおばあさまが、淫魔だったんだよ。夢魔ともいうかな。僕たちはその血を引き継いでるってわけ」

「夢魔、って……」

 もとの世界でも、小説や映画に出てきたのを見たことがある。インキュバスとか、サキュバスとかいう、悪魔のことだっけ?

「夢、が関係しているの……?」

 寝ている女性の枕元に忍び寄る、山羊の角がついた悪魔の映像が、ぼんやりと思い起こされる。

「ええ。私たちの甘い匂いをかいだあとに、妙な夢を見たりしなかった?」

「あの夢……っ! やっぱり、私のせいじゃなかったんだね!?」

「そうよ。淫魔はね、人の夢に入り込んで淫夢を見せて、生気を吸いとることのできる悪魔のことよ。私たちにそんな力はないけれど。せいぜい甘い匂いで魅了させたり、その匂いをかいだ人にいやらしい夢を見せるくらいね」

 クラレットの言葉で、顔がぼっと赤くなる。アッシュの半裸が妙に生々しかったこととか、壁ドンで迫られたことが鮮明に記憶によみがえってきた。

「いやらしい夢、って、そんなはっきり言わないでよ!」

 ただの夢にしては、はっきり覚えているしリアルすぎるとは思った。