ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 その夜――。みんなで祝勝会をしたあと、私は酔っぱらってソファで寝てしまった。

 あと少しの間はこのお店で働くことになっているし、アッシュはその間に身の回りを整理するつもりらしいし、婚約という甘い気分に浸ってのん気にうたた寝をしていた。

 三人のひそひそ声で、ふっと目が覚める。

 なにか深刻な声のトーンで、相談事をしているみたいだ。半分寝たままの頭で、耳をすます。

「ねえ、あのこと、ケイトにずっと黙っているつもりなの?」

「この前は、体質だって言って嘘ついたんでしょ? アッシュがケイトの世界にひとりで行くなら、僕たちもフォローできないよ」

「早めに話したほうがいいんじゃない? 甘い匂いは体質なんかじゃないって」

「そうだよ。ケイトの世界には普通の人間しかいないんでしょ? きっとケイトすごく驚くよ。僕たちが淫魔だって知ったら――」

 今、なんて言った?

 普通の人間じゃ、ない? 『インマ』、って何?

 がばっと、ソファから起き上がる。

 薄暗くなったお店の中で、三人の目だけが赤く光っていた。

「……!?」

 消えていたランプに、じじ……っとひとりでに火が灯る。

「ど、どういうこと?」

 部屋が明るくなると、三人が気まずそうな顔で私を見ていた。