ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「いえ、そんなことないです。私ほんとにモテなくて、この前も好きな人に失恋したばっかりなんです。ウォルさまは珍しいもの好きなだけだと思いますよ」

「……え? 失恋なさったの?」

「はい。もといた世界でも、彼氏に浮気されたあげく振られましたしね。こうなったら仕事が恋人って感じですよね、あはは」

 笑い話にしたのに、女性はとても気の毒そうな顔で私を見ていた。

「なんというか。まあ、がんばって……」

「ありがとうございます。だからその、判定は正直にお願いしますね」

「……わかったわ」

 コルセットをゆるめ、身体に合ったドレスを着せていくと、女性の顔がだんだん穏やかになっていくのがわかった。

 自分に似合うすてきなものを身に付けると、心も優しくなれる。

 誰だって、ぷりぷり怒ってばっかりの女の子ではいたくない。できればいつでも笑って、好きな人には可愛げを見せたいって思ってる。

 でも、素直になれる子ばかりじゃないから、そんなときはお洋服の力を借りてもいいんじゃないかな。

『似合ってる』『可愛い』は、どんな女の子でも素直になれる魔法の呪文だから。

「素敵です。やっぱりこの色にして良かった」

 着付け終わったそのドレスは、魔法のように女性にぴったりだった。寸法を測っていないのに身体に沿うデザイン、しっくりなじむ色合い。

「……コルセットをきつく締めていないのに、いつもより細く見えるわ」

「二の腕や肩周りを気にしていらっしゃったので、そちらをカバーするように作ってもらったんです。ウエストはもともと細いので、そこまできつく締め上げる必要はないんですよ」

「そうなの……。早く教えてもらえば良かったわ」

 お腹に手を当てながら、深い呼吸を繰り返している。息をするのもだいぶ楽になったのではないだろうか。

「じゃあ、私は次の方の着付けに移りますね」

「……ご苦労さま」

 最初よりも少しだけやわかくなったその声に、「ありがとう」の響きが混じっているような気がした。