ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「殿下。まだ、勝負がどうなるかわかりません。公正な判断をお願いします」

 アッシュが膝を折って、ふたりの間に割って入った。

「アッシュ。まさか本当に五十着完成させるなんてね。君ならそのくらいやってのけると思ったけど。でも、大事なのはここからだよ」

 ウォルが手招きすると、後ろで控えていた五十人の王族女性たちがざっ、と前に進み出た。

「審査員は、彼女たちだ。約束通り、ひとりでもドレスを気に入らない者がいたら、勝負は君の負けだよ」

「承知しております。では、着付けに移らせていただいてもよろしいですか。ケイトとクラレット、ふたりにお願いしようと思っています」

「いいとも。ふたりだと手が足りないだろうから、うちのメイドも何人か手伝わせるよ。着付けにはドレスルームを使ってもらおうか。あそこなら鏡もたくさんあるし、広いからね」

「ありがとうございます。では、セピアと俺は殿下と待たせてもらいます」

 アッシュとセピアに目配せしてうなずいてから、王族の女性たちをぞろぞろ引き連れてドレスルームを目指す。五十着ぶんのドレスを運んでくれている黒服たちも一緒なので、大名行列のようだ。

「舞踏会でおしゃべりしたときは、王族って言っても気のいいひとたちが多いと思ったんだけど、なんだか不機嫌そうなのが何人かいるわね」

「ウォルさまの側室だよ。きっと私のことが気に入らないんじゃないかな。私怨で不合格判定されないといいんだけど……」

「馬鹿ね。ケイトに側室になって欲しくないんだから、気に入ったふりをするに決まってるじゃない」

「ああ、そうか」

 ひそひそとそんな会話をしながら、白い石造りの廊下を歩く。どこもかしこもワックス塗り立て、みたいにぬめぬめ光っていて逆に気味が悪い。肖像画がずらっとかかっているのもこわいし、こんなところで暮らすなんて断固ごめんだ。

 せまくても、自分ひとりのお城がいい。自分で稼いだお金で借りた自分だけの部屋で、のんびり好きなことをする。いつでもたくさんの従者たちの目が光っている生活なんて、生粋の庶民である私に耐えられるわけがない。