ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 舞踏会の日に通された、天使とシャンデリアが遊ぶきらびやかなホール。

 そこに、五十人の王族女性とウォルがいた。

 当たり前だが、その女性たちの中にはウォルの奥さんたちもいて、私に対する視線が鋭い気がした。このことが、ドレスの判定に響かなければいいけれど……。いや、アッシュのドレスを信じよう。

「よく来てくれたね。仕立て屋スティルハートのみんな。この姿で会うのは初めてだね」

 ウォルの挨拶に対して、まずクラレットが進み出た。

「ご機嫌麗しゅう、殿下」

「クラレット、久しぶりだね。私の贈ったブローチは気に入ってくれたかな」

「ええ、もちろん。殿下からだとわかってからは、恐れ多くてつけられなくなってしまいましたわ。今は金庫で厳重に保管しておりますの」

 思わず吹き出しそうになってしまって、セピアとお互いの手の甲をつねりあう。

 私たちは知っているが、一週間前からクラレットはブローチを金庫にしまい込んでしまった。そこまではウォルに話したとおりなのだが、そのあと金庫の錠前を金槌で壊してしまったらしい。

「これでもう開くことはないわね。せいせいするわ」と言って。

 開かずの金庫にしまわれているなんて、ウォルは想像もしていないだろう。

「殿下。先日は舞踏会への招待、ありがとうございます」

 次にセピアが挨拶する。

「セピアだね。君とはお店でもあまり話したことはなかったね。ああ、そうそう、君は王族の女性たちにとても評判が良かったよ。礼儀正しくてかわいらしいってね」

「えっ、ほんとですか~?」

 セピアが、まんざらでもない嬉しそうな声をあげる。

 おいおい、ウォルに懐柔されてどうするんだという気持ちで見つめていたら、はっとした顔で振り返られた。

「こ、光栄ですが、僕にはもう心に決めた人がいるので」

「その心に決めた人、のことを今日私がいただくつもりだけどね」

 ウォルの言葉で、ふたりの間にバチバチと火花が散る。