ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「ここか……。仕立て屋スティルハート」

 想像よりも小ぢんまりとした建物の前で、しばし逡巡する。文字は読めないけれど、もらった地図と看板の文字が同じだから、間違いないと思う。

 白壁に装飾のあるドアという、クラシカルで控えめな佇まい。城下町の喧噪を少し抜けた場所にあるのも、隠し家っぽくてときめく。

 迷っていてもしょうがない、入ろう、と決意したとき、内側から扉が開いた。

「あれ? 窓からうろうろしているのが見えたから、お客さんだと思ったんだけど……。どちらさま?」

 小動物系の美少年が、扉を押さえたまま屈託のない笑顔を向けてくれる。まだ十代か、二十歳そこそこだろうか。三つ揃えのスーツからフロックコートだけ脱いだようなベストとズボン、蝶ネクタイという恰好で、アッシュよりはカジュアルに見える。

「あっ、あの……。実は役場の人の紹介で」

「あれっ、もしかして君って異世界人? すごく珍しい恰好してるね」

 話を切り出すと、あれっというような顔で目をみはられた。異世界人ということよりも、服装のほうが珍しいのだろうか。まあ、年中フォーマルを着ているようなこの世界の人から見たら、だいぶ軽装で珍妙な格好に見えるんだろうなあとは思うけど。

「あ、はい、一応」

「ええ~、すごい。ちょっとよく見せて!」

 美少年は、いきなり至近距離まで近づいてきたと思うと、身を屈めるようにして私の服を観察し始めた。ふわふわした茶色の髪とくりくりした大きな瞳が目の前にあって、ドギマギしてしまう。