「ドレス勝負……」

 その内容に、一瞬ほっとした。剣や格闘みたいな物騒な勝負じゃないし、ダンスみたいな不利な勝負でもない。

 私たちの土俵で試してくれている気がして、その部分はウォルに好感が持てた。でも……。

「ちょっと待って。一週間で五十着って、無茶に決まっているじゃない! 私たちが総出で手伝っても、とても……」

 そう、問題はそこだった。これでは勝負というよりも課題だし、『蓬莱の玉の枝レジン事件』よりも更に無理難題だ。

「無理ではない」

 後ろから音もなく近寄ってきたアッシュが、クラレットから書状をすっと取り上げた。

「うちに保存してあるサンプルもうまく使えば、一週間で間に合うだろう」

「そうだね。その間お店は閉めて、みんなで作れば何とかなるよ!」

 セピアも、明るい笑顔で私たちの肩を叩いてくれる。 

「でも、全員が気に入るドレスを作らなきゃいけないのよ? 私、王族の女性全員ぶんの体型や好みなんて覚えていないわよ!」

「あ、それなら私、覚えてるよ」

 そう告げると、三人同時に「えっ」という顔で振り向かれた。

「貴族の人たちは顔見知りが多かったから、王族の女性の会話を聞いて、名前と特徴を覚えようと思ってたんだ。今度の注文で役立つと思って……。帰ってすぐにメモにまとめたから、それと名簿と私たちの記憶を照らし合わせれば、全員ぶん埋まるんじゃないかな」

「ケイト、すごい!」

 セピアが私に抱きつこうとしたが、間に入ったアッシュに阻まれていた。

「あなた、いつの間にそんなに有能になったの?」

「もとの世界のショップでも、いつもやっていたんだよ。顧客さまの買っていったものとか、その日の会話とかを逐一メモして接客に役立てていたの。こっちに来てからも、習慣でメモはつけ続けていたんだよね」