「実は……、私の故郷の国では、他に妻がいる男性との結婚を禁じているんです。結婚は一夫一妻ではないといけないと……。なので……」

 口から出まかせだが、王子の結婚を断った、と言われて大変なことになるよりはいい。

「ふうん……。嘘でしょう?」

 ウォルが、挑発するような笑みを浮かべた。

「う、嘘じゃないです」

「君自身が、真剣な気持ちを嘘で踏みにじるのが嫌いなはずだよね? ケイトはそういう人間だと思っているよ。自分がされて嫌なことを他人にして、君は平気なの?」

 図星を突かれて、うっとなった。

「……ごめんなさい。自分の力でお店を出したいのは本当のことですが、ウォルさまと結婚できないのは別の理由です。好きな人がいるから、ウォルさまのことを恋愛感情で好きにはなれないんです」

「君の好きな人は、アッシュだね。見ていればわかるよ。それで、アッシュは何て言っているの?」

「私が好きだということは伝えていないですが、ほとんど失恋したようなもので……」

「ならまだ、私にもチャンスはあるわけだ」

 消え行く語尾にかぶせるように、ウォルが言い聞かせるようにして発音する。

「このまま黙って君を帰さないよ、ケイト。私からの求婚を断るという無礼を働いたのだから、君とアッシュには私からの要求を呑んでもらう」

 ひた、と私と見つめる瞳に、温度をなくした表情に、肌がざわりと粟立った。

「ちょっと待ってください。アッシュさんは関係な――」

「アッシュが自分の口で、『俺は関係ない』と言うなら、認めてあげるよ。言わないと思うけどね」

「そんな……! それに、要求って……」

「私と、勝負してもらうよ。勝ったほうがケイトを好きにできる。嫌とは言わせない」

 ウォルの言葉を聞きながら、私はこの世界に飛ばされた日よりも、混乱と恐怖に襲われていた。