「そしてね。そのかわりというわけではないんだけど、ケイトには私の妻になって欲しいんだ」

「――え!?」

 今度は、さっきよりも数倍大きい声が出た。

 なんなのだ、ここ最近のプロポーズラッシュは。しかも毎回、喜んでいいのかよくわからない状況での。

「ちょ、ちょっと待ってください。殿下と私は、舞踏会で一度会っただけですよね。そもそもなんで私なんかを妻にしようと……」

「一度会っただけ、じゃないよ」

 静かな声で、王子が告げた。私と王子が、動きを止めたま見つめ合う。部屋の空気も止まった気がした。

「まだ気付かない? こう言えばいいかな。ケイト、私の贈ったブローチは気に入ってくれた?」

「まさか……」

 私の見つめる前で、王子はすっと仮面を外した。隠れていた目元と鼻が露わになる。

 そこにいたのは、私のよく知っているあの人。金髪碧眼でつかみどころのない、『王子さまみたいにかっこいいです』という褒め言葉を笑っていた、あの――。

「黙っていてごめんね。私の本名は、ウォルナット・フリルテリア。正真正銘、この国の第二王子で、君たちのお店の顧客だよ」

 ウォルは、優しいのに深い眼差しの、あの笑顔を私に見せる。

「ウォルさま、だったんですね……。みんなは、三兄弟は、知っていたんですか?」

「気付いていたと思うよ。その上で、知らないふりをしてくれていたんじゃないかな」

 クラレットがやたら警戒していたことや、アッシュが『ウォルの接客はなるべくするな』と言っていたこと。毎回いつの間にか歩道から消えてしまっていたこと。そして、大晦日の日のあの服装も――。

 これだけヒントがちりばめられていたのに、どうして気付かなかったんだろう。