ひととおり味わってから言うのも何だが、王子さまとふたりでこんなにのん気にお茶をしている場合なのだろうか。呼び出されるなんて、そうとう深刻な話があるのではないか。

「そうだね。君がもとの世界に帰る話と、全然関係のない話ではないよ」

「と、言うと……?」

 まさか、転送魔法が使えなくなったとか? 不安になりながら尋ねると、王子は口元だけでふっと笑った。

「そんなにこわがらないで。君にとってもいい話のはずだよ。この前の舞踏会で、君は『祖母のお店を復活させたいからもとの世界に帰りたい』と言っていたね。おばあさまのお店は、どんなお店だったんだい?」

「ブティックです。ええと、完成した服がたくさん置いてあって、お客さまが自由に試着をして選べるような店……。祖母は仕入れも自分でやっていて、地元ではお得意さまも多かったんですよ」

「へえ……。うん、それならなんとかなりそうだ」

 王子は、仮面の奥の目を細めて、ぶつぶつとつぶやいていた。

「あの……?」

「ケイト。この世界でおばあさまのお店を再現するのはどうだい? 君の言っているようなお店だったら、私の力で作ってあげられるよ。そうしたら、もとの世界に戻る理由はなくなるよね?」

「――え?」

 思わず、大きな声で聞き返してしまった。信じられない気持ちで王子を見る。

「だって、そんな理由だったら別にもとの世界にこだわる理由はないだろう? おばあさまはもう亡くなっているんだし、こっちでお店を出しても君の夢は叶うんじゃない?」

「それは――そうかもしれませんが」

 他人の力でおばあちゃんのお店を復活させても、それは自分の夢を叶えたことになるのだろうか。それにどうして王子は、私にここまでしてくれようとするのだろう。