「謁見の間じゃ落ち着いて話ができないね。食堂に行こうか、お茶とお菓子をメイドが出してくれると思うし」

「いえあの、あんまり広いところは……」

「そう? じゃあ、私の私室に行こうか」

 私室、というから執務室みたいな部屋を想像していたのだが、連れて行かれたのは完全なプライベートルームだった。

 キングサイズよりも大きな天蓋付きのベッドとソファセット、精巧な彫刻が施されたチェストなどが置いてある。

「こ、ここって寝室なんじゃ? 私が入ってしまっても大丈夫なんですか?」

「うん。寝室だったらいくつもあるから大丈夫。そもそも私は自分の部屋ではあまり寝ないしね」

 その意味を考えて、顔が熱くなってしまった。毎日日替わりで奥さんたちの寝室に泊まっているのだろうか……。

「とりあえず、座って。今お茶を持ってきてもらうから」

 テーブルの上にあったベルを鳴らすと、一分もたたないうちにメイドが紅茶と三段重ねのケーキスタンドを持ってきた。その速さに呆気にとられてしまう。

 会話ひとつせず、ケーキスタンドをセッティングし、紅茶をカップに注ぐとメイドは一礼して去って行った。

「持ってくるのがずいぶん早かったですね。ずっと待機していたんでしょうか」

「そうじゃないかな。客人が来ることは伝えてあったし。遠慮せずに食べてね、うちのシェフのケーキは絶品だから」

「はい……」

 苺のプチタルトも、フォンダンショコラのようなチョコレートケーキも、手間がかかっていてたしかにおいしかった。紅茶も、いつも自分で淹れているのとは違う風味がする。

「おいしい?」

「はい。あの……、今日はどうして私のことを? 転送魔法の打ち合わせって言われて連れてこられたんですけど……」