ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「アッシュさんが仕立て屋?」

 少し――いや、だいぶ意外だった。私の周りにいるアパレル関係の男性は、物腰が柔らかくてフェミニンな人が多かった。女性を相手にすることが多いから、自然とそうなってしまうのだと思う。その点アッシュは、アパレルとも接客とも遠いところにいるタイプに見えたのに。

「貴族とか、そういう感じの人かと思いました」

「当たらずとも遠からず、です。もともとスティルハート家は仕立て屋の一族だったんですけれど、王室への貢献を認められて、先々代くらいで騎士ナイトの爵位を献上されたんですよ。我々のような労働者階級とはちょっと次元が違う人たちですね」

 傲岸不遜な態度では隠しきれていなかった上品な身のこなしとか、人を使うことに慣れている雰囲気はそういう訳だったのか、と納得する。

「地図をお渡ししますから、訪ねてみたらどうですか。住居は夜までに手配しておきますので」

「ええ~……」

 さっきのショックが薄れないうちにアッシュに会うことはためらわれた。が、これで肩の荷がおりた、というふうに微笑む役人さんに、わがままを喚き散らすことはできなかった。