「あなたはほんとに、魔性の男ねえ……」

「クラレットに言われたくないよ」

「私から見たらふたりとも魔性だよ」

 ため息をつきながらそう言うと、ふたりともに「心外だ」という顔をされた。 

「それで、ケイトはどうするの? アッシュのことが好きだって自覚できたなら、プロポーズを受けてもいいんじゃない? 付き合ってから好きにさせるのだって手段のうちよ」

 クラレットが、肉食系女子の目つきでそんなことを言い始める。確かに、結婚してから恋愛するのが普通だった時代もあるけれど。でも……。

「いや、僕はさ、アッシュもケイトのことが好きだと思うんだけどなあ……」

 う~ん、とセピアが首をかしげる。

「それは、ないよ。本当に責任感だけで言ってるんだと思う……」

「だとしても、利用しちゃっていいじゃない。この世界のことだって、嫌いじゃないんでしょ?」

「好きだよ。この国も、この国の人も、みんな好き。でも、でもね、私はもとの世界でなにもやり遂げてない……。仕事も、夢も、中途半端なまま残してきちゃった。そんな気持ちのまま、ここにずっといられないよ」

「じゃあ、このまま黙って帰るつもり?」

「……うん」

 うなずくと、クラレットの表情が変わった。なんだか、怒ってるみたいだ。

「そう。それなら私は、もう何も言わない」

 がたっと音を立てて椅子から立ち上がり、こちらを振り返らずに部屋から出て行ってしまった。

「クラレット!」

 セピアの呼び止める声と、扉を閉めるばたん、という音が同時に響く。

 残された私たちの間に、重たい沈黙が降り積もった。