「今まで気を付けていたのに、こんな失態を犯してしまうとは申し訳ない。君の――その、唇を無理やり奪ってしまったことも」

 ためらいながら改まって言われると、余計に恥ずかしい。ついアッシュの唇を見てしまい、顔がぼっと赤くなるのがわかった。

「未婚の女性の唇を奪うなど、あってはいけないことだ。責任を取らせて欲しい」

「いやあの、そこまででは――」

 多少激しかったとはいえ、キスをしただけだ。だけ、と言ってしまうのは悲しいが、最後まで無理やりされたわけではないのだから……と思っていると、アッシュが真面目な顔で予想もしなかった台詞を吐いた。

「ケイト。俺と、結婚してくれないか」

「――はぁっ!?」

 責任って、そっち? あなたは何時代の人ですか? と思ったけれど言葉も出なかった。

「急に結婚と言われても考えられないだろうから、まずは結婚を前提として付き合って欲しい」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「この世界にはケイトの親御さんもいないから、無断で結婚することになってしまうが……」

「そういうことでもなくて!」

 思わず大声を出してしまった。肩で大きく息をしていると、アッシュがしゅんとした顔をしてうつむいた。

「嫌か?」

 上目遣いで尋ねられて、ドキッとしてしまう。なぜこのタイミングで可愛げを見せるのか。

「嫌というか、だって私はもとの世界に帰るんですよ?」

「帰らなければいい。ずっと俺たちの店にいればいい」

「そっ……」

 だれよりもアッシュから聞きたかった台詞を、こんなかたちで聞くことになるなんて。