ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「君は、もとの世界に帰りたくてお金を貯めているんだって?」

「は、はい。一年くらい働けば、帰れるそうなので」

「そうらしいね。でも――」

 王子が言葉を切って私を見つめる。わずかにしか見えない目元に、射抜かれるような気持ちになってしまうのはどうしてなのだろう。露わになった口元は、穏やかな笑みを浮かべているというのに。

「この国の歴史では、君と同じように世界を飛び越えてしまった異世界人が何人か存在する。その中でどれくらいの人がもとの世界に戻ったと思う?」

 王子からの急な質問に、戸惑ってしまった。

「え……。ほとんどの人が、戻ったんじゃないですか?」

「いや。実はね、もとの世界に戻ろうとした人のほうが、ほとんどいないんだよ」

「え――」

 そういえば、最初に役場に行ったとき、他の異世界人はどうしたのか訊かなかった。だって、帰るのが普通のことだと思っていたから、訊く必要がなかったんだ。

 なのにどうしたことだろう、事実は私の予想とまるで違っていた。

「どうして、って顔をしているね。無理もない」

 他の人たちはパートナーを交換し始めたのに、王子は私から目を離さない。

「最初はね、みんなケイトと同じように『お金を貯めて戻る』って言っていたんだよ。でもね、一年経つ頃には多くの人が『やっぱりやめる』と言い出すんだ。どうしてだかわかる?」

「う~ん。働いたお金を別のことに使いたくなった、とかですか?」

「半分正解で半分外れかな。答えはね、一年の間に、こっちの世界で大切なものを見つけてしまうからなんだ。やりがいのある仕事だったり、かけがえのない友だったり、愛する人だったり。貯めたお金は結婚式や、新居に使うって人もいたな。そういう意味ではケイトの答えは当たりだね」

 何も答えられないまま、ただ漫然とステップを踏むだけの私を、王子がぐいっと引き寄せた。

 今までも密着して踊っていたけれど、これではほとんど抱きしめられているようなものだ。近すぎて仮面の中が覗けてしまいそうで、顔が上げられない。