ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 どうしたらいいかわからずにアッシュを見ると、目線で「行け」と言われた。

 おそらく、今日この場では第二王子がルールそのものなんだろう。

「はい、ぜひ。喜んで」

「良かった。じゃあ、行こうか」

 王子の差し出した手を取ると、待っていたかのように室内楽の演奏が流れ始めた。これはもうオーケストラなんじゃないか、という規模の楽団が端っこで演奏している。指揮者はこちらをちらちらと伺って王子の動向を気にしていた。

「素晴らしいよ。君の、今日のドレス」

 ホールの中心まで進み出ると、王子が向き合ってステップを踏み始める。リードが上手いので、ぎこちなくもなんとかついていけている。まわりの人たちも踊り始め、徐々にダンスの輪が広がっていった。

「ありがとうございます。異世界での私の故郷の……民族衣装を模したドレスなんです」

「そうか、君の祖国の……。大胆さと繊細さ、騎士道精神と淑女の心が同居しているような布地だね」

 武士も、大和撫子も知らない王子がそう言うのでびっくりしてしまった。

「見たことのない色遣いと柄なのに、不思議と心惹かれるよ。きっと君の店に注文が殺到するだろうね」

「そうなると、ありがたいです」

 王子が私の手をつかんで上にあげたので、くるっと一回転する。音楽に合うととても気持ちいい。

「そうそう。上手だよ」

 女好きの変態だと思っていたのに、王子とのダンスも会話も、意外にも楽しかった。物腰は柔らかいし、声は優しいし、そしてよく知っている誰かに似ている――気がする。