ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

 王子が目の前に来たとき、アッシュは膝を折って頭を下げたので、私もそれに倣う。ドレスの裾を持ち上げてアッシュと同じ体勢になる。

 こんなポーズ、騎士やお姫さまになったみたいで照れくさいけれど、王族へ謁見するときの正式なスタイルらしい。

「殿下。このたびは舞踏会への招待、まことにありがとうございます」

 アッシュが、恭しく首こうべを垂れたまま挨拶を口にする。

「君たちの功績を考えたら当然のことだよ。今まで招待してなかったのがおかしい。ここにいる王族のほとんどのドレスは、君が作ったものだろう?」

 王子の声が上から聞こえてきたが、意外とフランクだった。もっと、「くるしゅうない、近う寄れ」とか言われる雰囲気だと思っていた。

「ありがとうございます。もったいないお言葉です。」

「頭の硬い年寄りの中には『貴族の端くれとはいえ、仕立て屋を招待するなんて』と反対する者もいたんだけどね。私の生誕祭だから、わがままをきいてもらったんだ。楽しんでもらえたら嬉しい。――そして、ケイト?」

「は、はい。殿下、ご機嫌麗しゅう」

 急に名前を呼ばれたので、声が裏返ってしまう。

 おそろしい人じゃないとわかっていても『王族』というだけでびびってしまうのは庶民の性なのか。以前クラレットに聞いたとおり、身分を気にしない革新的な性格のようなのに。

「そんなかしこまらなくていいよ。君に会えるのを楽しみにしていたんだ。一曲踊ってくれないか?」

「えっ」

 王子の言葉に驚いて、立ち上がりそうになってしまう。最初のダンスは自分のパートナーと踊って、だんだんペアを交換していくのが決まり……じゃなかったの?