「あの、もとの世界に帰る方法はないんですか? 職場も無断欠勤になっちゃうし、私一人っ子だから親に心配かけたくないんです」

 必死で訴える私に、役人さんはかわいそうなものを見る目を向けた。

「そうですよね……。実は、帰る手段はなくはないんです」

「本当ですか?」

「はい。エルフなどの魔法種族何人かで転送魔法を使えば、もとの世界に飛ばせるかもしれません」

 エルフ、魔法種族。また頭の痛くなるような単語が飛び出したが、転送魔法という台詞に体温が上がった。

「なら、それをやってください!」

 思わず、カウンターから身を乗り出す。役人さんは引きつった笑顔を浮かべたまま、身体を後ろに引いた。

「ただですねえ……、魔法種族というのは気難しい人たちが多くてですねえ……」

「はあ」

「割と高めの報酬がないと、人間のために動いてくれないんですよ」

 お金。ファンタジーな世界なのにそういうところは世知辛い。

「それってどれくらい必要なんですか?」

「ざっとこれくらいですね」

 役人さんはカウンターに備え付けてあった羽ペンを取って、紙の上に数字をさらさらと書きつける。ゼロがたくさんあるのは分かったけれど、この世界の物価が分からない。

「あの、これってどれくらいの金額なんですか?」

「ああ、そうですよね、すみません。だいたい、一年間必死で働けば貯められるくらいの金額ですよ」

「――え?」

 今、なんて? 耳を疑いたくなるような言葉が聞こえた気がするけれど……。