ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「あのさ……、甘い匂いをかいだ日って、変な夢を見たりしなかった?」

「変な夢って?」

「その……、セピアくんとキスしたりとか、いちゃついたりとか、そういうような夢」

 さすがに壁ドンや床ドンのことは言えなかった。私の言葉を聞いたローズは首をひねる。

「どうだったかな……。見たような気もするけど、どこまでが現実でどこからが夢なのか覚えてないや。ずっと夢見心地みたいな感じだったし」

「そっか……」

「ずいぶん変なこと訊くんだね。そういう夢、見たことあるの?」

 ローズの瞳が追及にぎらりと光った瞬間、クラレットがティーセットを持ってきた。

「お茶、お待たせしました。ゆっくりお話はできたかしら?」

 天の助けならぬ、オネエの助け。「クラレット、ナイスタイミング!」と抱きつきたいような気分だった。

「あぁ~……。あたし、そろそろおいとましようかと」

「あら、お茶も飲んでいってくださらないの? 三人分淹れたのだけど」

「じゃ、じゃあ、一杯だけ」

 ローズは居心地が悪そうに、ぎこちない動作でお茶を飲んでいた。クラレットはあれこれ話しかけていたけれど、相槌を打つので精いっぱい、と言った様子。

 宣言通り紅茶一杯でローズは帰っていったのだが、見送るときにこそっと、

「あの人、貴族っぽい上に妙な迫力があるから緊張しちゃったよ。すごい美人だし」

 と言われた。

 すごい美人、の部分だけクラレットに教えてあげたら喜びそうだ。

 そのあと、何回かレストランにひとりで通って、ローズと無事に『庶民の女友達』になれたのは、また別の話。