ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「最初は匂いだったかな」

「匂い?」

「うん。甘くていい匂いがして、どこからだろうって周りをきょろきょろしたらセピアくんがいたんだ。見た目が優しそうで王子さまみたいで、匂いに誘われるようにふらふら~っと近寄ってた。頭がぼうっとしてて、ほとんど無意識だったんだよね」

 甘い匂いに誘われた蝶。いつか夢で見たシチュエーションに似ている。

 頭がぼうっとする感覚も、この世界に来てから何度も味わったものじゃなかったっけ。

 ――そう、あの三兄弟のそばにいるときに。

「ふだんはそんな大胆なことしないんだけど、気付いたら話しかけてて。身なりが良くて上品で、私とは住む世界が違うような人なのに、嫌な顔ひとつしないで返事してくれたんだ。中身も優しいんだなって思って、もうその瞬間には恋してた」

 好きな人の話をするときの女の子は、すごく素敵な表情になるのはどうしてだろう。夢見るような瞳も、甘さと切なさがにじんだ声色も、見ているだけで私の胸もきゅんと痛む。

「セピアくんに夜会わないか誘われたときに、向こうは遊びだと思ってるって気付けば良かったんだよね。あたし馬鹿だから、喜んで誘いに乗っちゃって」

“夜に会う”“誘い”というのは、きっとそういうことなのだろう。

 少し口に出すのがためらわれたが、気になったことをローズに訊いてみることにした。