「大きいと言っても耳が壊れるほどではないから心配するな。王族と前列の国民は耳栓をつけているが」

 アッシュがぎょっとするようなことを言い出す。

「ほ、ほんとに鼓膜が破れたりしませんか?」

「心配なら、耳を押さえていろ」

 手袋をはめた手でぎゅっと耳を押さえたあと、カウントダウンがはじまった。百からはじまった数字が十まで来たとき、まわりの熱気も私のドキドキも最高潮に達していた。

 十……九……八……。

 ちらりとアッシュを見上げると、平然をした顔でまっすぐ前を見ている。

 七……六……五……四……。

 きょろきょろしてみると、同じように耳を押さえているのは子どもだけだった。大人なのにこんなに怯えている自分が恥ずかしくなったが、今さら手を離せない。

 三……二……一……ゼロ!

 ぱーん!という音と一緒に、拍手が巻き起こる。宙には紙吹雪がひらひらと舞っていた。

「大したことはなかっただろう」

 耳から手を離した私に、アッシュが告げる。

 じゅうぶん大きな音だったと思うのだが、毎年のことで慣れていればこんな反応なのだろう。

 王族は一礼すると、バルコニーから去っていった。まわりの人たちも動き始め、私とアッシュも流れに乗って帰り始める。

 すると、目の前の人が急に止まって、転びそうになった。もたもたしているうちに、目の前にいたはずのアッシュを見失ってしまう。

 人をかきわけながら前に進むと、アッシュの後ろ姿が見えた。