ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「べつにかまわない。年明けの瞬間に王族の挨拶を見るだけだろう」

「あら、ダメよ。ケイトは今年しか参加できないんだから、出店も堪能させてあげないと」

「そうそう。普段の働きのねぎらいとして、“経営者の”アッシュがおごってあげないと」

 なんだか、クラレットとセピアの押しがいつもより強い。アッシュも少し面食らった様子だった。

「人混みは苦手なんだが」

「あの、無理しなくていいです。年明けの瞬間だけでもじゅんぶんなので」

 あまり強く誘って絶対零度の冷気を放たれても困るので、あわてて顔の前で手を振る。

 アッシュは考えている様子だったが、やや間があったあと紅茶を置いて私の顔を見た。

「いや、いい。行こう。迎えに来るから、夜までに準備しておいてくれ」

「えっ、ほんとに?」

 思わず驚いてしまった私の台詞に、アッシュがぴくりと眉を動かした。

 あ、まずい。せっかくその気になってくれたのに、機嫌を損ねてしまったかも。

「嫌なら別に――」

 アッシュが言い終わる前に、クラレットが会話を遮って入ってくる。

「良かったわね。また風邪を引かないように、暖かい恰好して行きなさいよ。アッシュも、小銭を多めに持っていきなさいよ。出店の鉄則よ」

「楽しみだね~。向こうで会ったら、レストランの出店でも食べていってね」

 ふたりに強引に話をまとめられてしまった。

「じゃあ、あの……。よろしくお願いします」

「ああ」

 うなずいたアッシュの表情はやはりまったく読めなかったが、一緒に行くために苦手な人混みを我慢してくれようとしているのはわかった。

 ――そういうのって、けっこう嬉しいかも。

 うきうきしてきた気持ちを悟らせないように、みんなから目を逸らして紅茶を飲み干した。