* * *

「着いたぞ」

 無言で歩いていたアッシュが足を止めたのは、白い石造りの大きな建物の前だった。

「え……、ここ、お城じゃないですか!」

 そう、どこをどう見てもお城だった。

 四角形の建物と円柱状の塔を合わせて三角屋根をつけたデザインで、屋根にはいくつもの国旗がはためいている。

 敷地のまわりには川と言っていいほど広い堀があり、車がゆうにすれ違えるくらいの幅の、木でできた跳ね橋がかかっている。

 お城をぐるりと取り囲む堅牢な門の入口には、重そうな甲冑姿に槍を持った兵士たちが微動だにせず立っていた。

「そうだが?」

「中に入ってもいいんですか? 観光スポットなの?」

「城の中に入るわけじゃない。敷地内にある役場に行くだけだ」

「お城の中に公共施設があるんですか……?」

 アッシュがひややかな目で私を見つめてくるので、黙ることにした。

 門に立っている兵士は私に対して警戒の目を向けたが、アッシュがひと言ふた言説明すると、そのまま通してくれた。

 お城の隣に別棟のように鎮座している、そっけない灰色の正方形の建物に、迷いない足取りで入っていく。

「ス、スティルハートさん! 今日はどうしたんですか?」

 カウンターのうしろで座っていた役人らしき人が、アッシュを見てあわてて立ち上がった。建物の中は飾り気がなく、海外も役場はこんな感じなんだなと変なところで感心する。

「迷子を連れてきたのだが」

 迷子って。もう少し言いようがあるんじゃないのか。