ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます

「セピアくん、ちょっと待って。なんか勘違いしてない?」

「え、してないよ。だって――」

 私が前のめりになった瞬間、作業室の扉がガチャっと開いた。

「もうそろそろ開店の時間だ。準備しなくていいのか、ケイト」

 慌ただしさを集めたような部屋に似つかわしくない、整いすぎた外見のアッシュがつかつかと入ってきた。

 セピアを気にしながらも、私に含みのある目線を送ってくる。

「あ……。ごめんなさい。すぐ出ます」

 無事に話は終わりました、という意味をこめてうなずいた。

 もう少しセピアを問い詰めたかったが、仕方ない。もしかしたら、もとの世界に片思いしている人がいるって思っているのかも。恋人がいないのに帰りたいのはおかしい、みたいなことを最初に言われたし。

「私がいちばん未練があるのは、おばあちゃんのお店だよ」

 扉を閉めて、ふたりの気配を背中で感じながら、胸に落とすようにつぶやいた。

 世界でいちばん大好きだった祖母は、もういない。祖母の残した夢があるだけだ。

 だから帰りたい。帰らなければいけない。なのにどうして、戻ることを考えただけで泣きたい気持ちになってくるんだろう。この世界に来てから過ごした数か月が、あまりに濃すぎたからなのかな。

 一年なんて、あっという間だ。最初はすごく長いと思っていたけれど。

 だからこんな余計な感傷は、捨ててしまわなきゃ。笑っても泣いても、別れのときは必ず来てしまうのだから。