「天国? ここはフリルテリア国だ。もうすでに、馬に頭を蹴られたあとだったか? それとも君は死にたくて道端に寝転がっていたのか?」

 美しい顔に似合わないひどい台詞を投げつけられたが、私が注目したいのはそこではない。

「フリルテリア国?」

 聞いたことのない国名だった。でもとにかく、自分が生きていることは分かったのだ。

 それならばなぜ、知らない場所にいるのだろう。気を失っている間に誘拐でもされたか、海外に傷心旅行に来たけれど記憶喪失になったのか。道端で倒れていたことを考えると、後者はかなりあり得そうだと思う。 

 街並みを見回してみるけれど、明らかに日本ではなかった。

 灰色の石畳と、形のそろった背の高い、でこぼこした白壁の建物たち。カラフルな屋根、小さな窓にはまった木の格子。

 通りを行き交う人たちの服装もクラシカルだし、本物の馬に引かれた馬車も走っている。現実味がなく、まるでテーマパークのようだった。

 明らかに日本人ではないこの男性に言葉は通じるみたいだし、どこかの映画村と言われたほうがしっくりくる。

「ええと、ここはヨーロッパですか? それとも、フリルテリア国って名前の日本の映画村?」

「ヨーロッパ……、ニホン……?」

 男性はカタコトのイントネーションで呟いたあと、よりいっそう顔をしかめた。

「外国人じゃなくて、異世界人だったか。面倒なものを拾ってしまったな」

「あの、今何て?」

「ついて来い。役場までだったら、送ってやらないこともない」

「ま、待って」