『……ところで水城君、君もいい年だろう? どうだ、私の娘と会ってみないか?』

うちの会社の広告を委託しているアルコン広告社の有坂社長から電話がかかって来たのは、数日後のことだった。

それは、会議から社長室へ戻り自分のデスクに座ったと同時で、まるで待ち構えていたかのような電話だった。

有坂社長の娘と? それって見合いってことか?

男の三十二歳なんて、まだまだ働き盛りで結婚なんて意識するような年じゃない。そう思っているのは俺だけだろうか。有坂社長に『いい年』と言われて改めて考える。しかし、俺が会社を立ち上げた時、有坂社長にはずいぶん世話になったし恩もある。無下にはできない。

『娘の写真をメールに添付して秘書に送らせよう。考えてみてくれ』

「……わかりました」

それから仕事の話や他愛のない会話をして電話を切ると、無意識に重いため息をつく。すると、休む間もなく秘書が明日のスケジュールの確認をしにやってきた。

「水城社長、少しお疲れみたいですね」

「え? そんな風に見えるか?」

百人以上の社員を抱え、会議や出張を繰り返す毎日。人の上に立ち、俺の会社で汗水たらして頑張ってくれている社員がいる限り、決して弱い部分は見せない、ましてや疲れた顔など……と思っていたが、秘書にはそんなわずかな気の緩みもお見通しのようだった。