「オーナー、この手紙どうします?」

「ああ、そこの棚の箱に入れておいてくれ。花束は……そうだな、カウンターの花瓶を使うか」

「それにしても、ピアノ演奏してるだけでストーカーに着け狙われるなんて、さんも気の毒ですね……警察に届けないんですか?」

なんだって? ストーカー?

その不穏な会話に思わず聞き入ってしまう。

「そうはいってもなぁ、具体的に実害がないし……あいつがこういう物を受け取るのを怖がって拒否してるんだよ。それに、花や手紙に罪はないからな。まったく、こういう時に守ってくれる男でもいりゃいいんだが……まるで色恋に興味ねぇって顔してる」

そんな会話をしながらふたりは店の奥へ行ってしまった。

彼女がストーカーに着け狙われてるだって?

それが本当だとしたら心穏やかじゃなかった。

まるで色恋に興味がない……か、正攻法で俺がいきなり声をかけても返って警戒されるだけだな。

それに、手紙や花束を贈ろうかと思っていた矢先、その成功率が限りなく低いことがわかってしまった。俺がそんなことをすれば、そのストーカーとやらと同じように逆に彼女を怖がらせてしまうだろう。

彼女が危険に晒されているというに、なにもできない自分が歯がゆい。

どうにかして彼女と接触する方法はないか、と考えあぐねていたある日、晴天の霹靂ともいえる絶好のチャンスが訪れた――。