水城さんの整えた髪が乱れ、前髪から雫が滴っている。こうしてみると、“水も滴るいい男”という表現がぴったり……なんて、今はそんなことに現を抜かしてうっとりする余裕なんてなかった。

「さっき君が言っていた週刊誌のって、この写真のことだろう?」

雨が降っているというのに水城さんはポケットからスマホを取り出すと、開いた画面を私に見せた。

「え……」

それは梨花さんと思われる長い黒髪の女性と、後ろ姿ではあったけれど背の高いスーツを着た男性が仲睦まじく飲食店から出てくる白黒スナップ写真だった。

「週刊誌に載っていた写真、君はちゃんと見たのか?」

私はそう言われて息を呑む。

――知ってる! この人、いま噂の美人ピアニスト、木内梨花でしょ。
――えーっ! 相手の人、背が高くてめちゃくちゃイケメンそうじゃない? 顔が鮮明じゃないからわからないけどさぁ。

先日、週刊誌を囲みながら先輩たちが話していた会話を思い出す。そして、ネットの検索で『美人ピアニストお忍び深夜デート! お相手は大手企業のイケメン社長か』という見出しを見ただけで、肝心の写真を見たわけじゃなかった。それに、梨花さんが水城さんに好意を寄せていたこともあって、私は週刊誌の写真を見ずに梨花さんがすっぱ抜かれた相手を勝手に水城さんだと思い込んでしまっていたのだ。

そして今、その写真に写っている梨花さんの隣にいる男性が水城さんの後ろ姿とは似ても似つかない別人だったという事実に、私はただただ呆然とするしかなかった。