「すぐにお飲物をお持ちいたします」

適当に軽めの白ワインを注文し、予約の時にベーシックコースを頼んでおいたから、あとは料理が運ばれてくるのを待つだけだ。ほかにも色々コースはあったけれど、とてもじゃないけど今は財布に余裕がない。

目の前に置かれた品書きに目を通す。

えーっと、なになに……鯛のマリネ、パプリカとズッキーニのカポナータ オレンジヴィネグレット、季節のミネストローネにメインはフレッシュトマトと茄子のペペロンチーノ……なんだか美味しそう!!

メニューを見ているだけでもわくわくしてしまう。聞いたこともない素材に胸が躍る。おしぼりで手を拭いて、改めて店内を見渡すと、ハイソな中年の夫婦が数組と、若い社会人カップルの姿が見受けられた。ひとりで来ているのは私くらいなものだ。けれど、そんなこと全く気にならないくらいお店の雰囲気が素敵で、水城さんのセンスの良さが窺えた。

「二十時からピアノ演奏をお楽しみいただけますが、お客様のほうでリクエスト曲はございますか?」

不意にスタッフに声をかけられ、いつもはリクエストを尋ねる立場だけにいきなり逆になると戸惑う。

「い、いえ……特には、そちらでお任せします」

「かしこまりました」

気の利いたことが言えずにもじもじしていると、前菜の次にスープが運ばれてきた。

イタリア料理と言えば、マンマ(お母さん)が作る家庭料理というイメージが強いけれど、雰囲気のある店で食べると一気に高級感が増す。

んー! このカポナータ美味しい!

カポナータはフレンチでいうラタトゥイユに似ていて、どちらもトマトベースの煮込み料理。けれど、カポナータは砂糖やワインビネガーも塩コショウにプラスされて、どちらかというとラタトゥイユより甘酸っぱい味わいになる。そのうちメイン料理も運ばれてきて舌鼓を打っていると、どこからともなくピアノの旋律が流れてきた。

この曲は……。