「あー! そんなの絶対だめだって!」

いくらなんでも水城さんに対して罪が重すぎる。こんな、恋人ごっこみたいなことして……水城さんが本当のことを知ったら……。

頭を抱えて天井を仰ぐと、優香が目を丸くして驚いて私を見た。

「愛美、あのさ……水城さんのこと、実は本当に好きになったり――」

「ない! そんなこと! だって、私は水城さんのこと騙してる立場なんだよ? 好きになんて……そんな資格ないよ」

そう。私に水城さんを好きになる資格なんてない。いくら彼が素敵でも、そんなことあってはいけないのだ。

「そっか。変なこと聞いちゃったね、ごめん……今の忘れて」

優香はスマホを手にすると立ち上がった。

「もう寝るの?」

「うん、明日も早いからね」

私と優香はそれぞれ自分の部屋を持っている。テレビやソファがあるリビングはその中間地点だ。優香が部屋のドアを開けると、肩越しに振り返る。

「愛美が水城さんのこと、好きになったかなって……ちょっと思っちゃった」

「え? なんでそんなふうに思うの?」

すると、優香はニッと笑って言った。

「だって、この前見ちゃったし? 水城さんが愛美にでこチューしてるとこ」

「なっ……」

はぁっ!? 嘘、なんで? まさか、あのとき……優香に見られてたってこと?

ストーカー事件の夜、優香は飲み会だといっていたけれど、ちょうど帰り道にタイミング悪くあの場に居合わせていたのだ。きっと、電柱の陰に隠れてしっかり見ていたに違いない。

「愛美があんなに可愛い顔するから、てっきり」

「もう、馬鹿っ!」

クッションを投げつけると、優香は部屋に逃げこみ虚しくドアに当たって落ちた。

なにが、あんなに可愛い顔、よ! 私が一体どんな顔してたっていうの? 恥ずかしい……。

悶々としながら時計を見ると、すでに0時を過ぎていた。