偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

「そういえば、今夜は眼鏡なんだな」

「そ、そうなんです。私、ドライアイで長時間コンタクト着けられなくて……」

眼鏡のことを突っ込まれた時の口実をあらかじめ考えておいてよかった。本物の優香は最近レーシックを受けて眼鏡から卒業したんだけど。

「眼鏡姿も可愛いな」

「え?」

「いや、こっちの話。さ、もう遅いから君を部屋まで送っていくよ。すぐそこだけど」

紳士な水城さんはそう言って部屋まで私を送り届けた後、笑顔で神楽坂のマンションに帰宅した――。


ハァ、もうどうしよう……これ以上、恋人の振りなんて無理だよ。いつかバレるに決まってるし。それに、水城さんをずっと騙して……。

こんなつり橋を渡るようなこと、いくら心臓があっても足りない。

ストーカー事件から数日後。
警察から電話がきて犯人の男は猛省しているようで『厳重注意しておきました』と連絡があった。これで、妙な手紙もなくなると思うとホッとする。これも全部、水城さんのおかげだ。それなのに、私は彼に対して欺くようなことをしている。私の中で、罪悪感が爆発するのも時間の問題のような気がしてきた。

「愛美、愛美ってば! お茶こぼれてる!」

「え? わっ!」

優香に言われてハッと我に返り、見るとテーブルがお茶の海になっていた。

「もー、さっきからずっとぼーっとしちゃって、ほら、布巾」

「ごめん、ありがと」

私も優香も今夜は仕事が早く終わってすでに帰宅している。ようやくゆっくり彼女と話ができそうだ。それなのに私は水城さんのことをどうやって話したらいいか、ああでもないこうでもないと言葉選びに時間がかかっていた。