水城さんの顔を見た瞬間、私の思考回路がショートした。
「ああ、待ってたよ。この店の場所、ちょっとわかりにくかっただろう? さ、座って」

信じられなかった。私の目の前でにこやかに笑う彼。なんとなく見覚えのある後ろ姿だと思ったけれど、あまりの緊張でそんなこと思い返す余裕もなかった。

「どうした?」

「え、あっ、す、すみません」

耳に心地いい低音ボイス、指通りのよさそうなサラサラの黒髪、綺麗に整った鼻筋と切れ長の目……。

まさか、人違い……だよね? どうしてイルブールにいつも来るあの人がここにいるの?

真っ白なテーブルクロスと同じように、私の頭の中も真っ白だ。なぜなら、水城樹さんという人が、イルブールで会うあの紳士だったからだ。

挙動不審な態度じゃ怪しまれちゃう。ちゃんとしなきゃ……。

「お待たせしてしまったみたいで、すみません」

そう言いながら平静を装い向かい合わせに座る。

こうして真正面から彼の顔を見たのは初めてだった。いつも斜めからとか横からしか見ることができなかったけれど、見れば見るほど人違いじゃないと思わされる。

私は優香、私は優香……。

そう自分に言い聞かせて緊張をほぐそうとするけれど、水城さんはあまりにも素敵な人で、目を合わせるのにも困る。