咄嗟に耳にあてがったスマホを離して画面を確認すると、『水城さん』と名前が出ていた。

そういえば、名刺にあった水城さんの電話番号、登録しておいたんだった……。

『今、電話しても平気か? この時間は昼休憩だと言ってたから』

「え、ええ。はい、大丈夫ですよ」

胸に手をあてがいバクバクと高鳴る心臓を押さえつけ、大きく深呼吸する。

うっかり「もしもし、優香?」なんて言わなくてよかった……。

『週末のことなんだけど、君のリクエストを聞いておこうかと思ってさ』

リクエスト……そんなこと急に言われても、思いつかないよ。

デートなんて久しぶり過ぎて、以前、自分がどんなデートをしていたかすら忘れかけていたくらいだ。こうやって会社以外の男の人と話すことだって……。

「あ、あの……すみません、パッと思いつかなくて……お任せします」

ハァ、お任せしますなんて言われて一番困る返事だよね……。

つくづく自分がつまらない女だと思い知らされる。

『わかった。じゃあ、こっちで考えておくよ。ごめん、いきなり電話したりして』

「いいえ。連絡ありがとうございます」

『週末、楽しみにしてる。それじゃ』

それだけ言うと、水城さんは手短に電話を切った。