彼と別れたくない。離れたくない。ずっとずっと一緒にいたい。許されない幸せなんかないと、そう信じたいのに……。

「シオンは人の感情に敏感なんだ」

「え?」

「俺が仕事で失敗して凹んでるとき、いつもそうやって膝の上に乗ってくるんだ。君、ずっとなにか悩んでいることがあるんだろう?」

水城さん図星を指されて、私はシオンを撫でる手を止めて一点を見つめた。

「もし、言いにくい事なら急かすつもりはない。けど、なにか俺にできることがあるなら言って欲しい」

父に水城さんと付き合っていることを言ったことは、まだ彼に話していない。心配かけたくないのは山々だけれど、返ってそれが水城さんの気がかりになってしまうなら、いっそのこと話してしまおうか。と、しばらく私は口を噤んで黙っていた。

「あの……」

うまく言葉にできるかわからないけれど、とにかく私は重たい口を開いて沈黙を破る。

「先日、イルブールで演奏した夜……突然、父が店に来たんです」

「え? 有坂社長が?」

意外だ。と言わんばかりに水城さんが反応する。それだけで、なにか嫌な予感を抱いたのか、彼の表情から笑みが消えた。