偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

梨花さんは唇を噛んで目に涙をためながら、プイッと顔を背けると無言で去って行った。

「すまないな、また君に嫌な思いをさせた」

あっけに取られている私に、水城さんが目を伏せる。

「いえ、全然気にしてませんから、平気です。あの来月のプレゼンって……」

「ああ、さっき川野君にお願いしたプレゼンのことだ。それが終わった後に秋冬メニューを参加企業に提供する予定で、そのときの演奏を彼女に頼んであるんだよ」

「え? じゃあ、会場はお店ってことですか?」

通常、プレゼンと言えばホテルの広間や会議室というイメージだけど、今回は食事を出す関係でパリメラの本店で行うという。

「パリメラのお店、雰囲気もいいですし、もしかしたら川野さんにはいい環境かもしれません」

「川野君はちょっと緊張癖がありそうだから、そうだといいな」

店の前で話していると、一台のタクシーが目の前に停まる。

「行こうか。うち、泊っていくだろう?」

水城さんにめくばせされ、私もそれに笑顔で頷いた――。