偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

もっと水城さんと一緒にいたいな……。

「やっぱり、あなたたちってそういう関係だったのね」

楽しい時間の余韻に浸ってそんな風に思っていると、不意に背後から声がした。振り向くと、仕事を終えた梨花さんが眉を顰めて私を睨んでいた。

「梨花さん……」

美人が鋭い視線ですごむとものすごい圧力だ。だから、私はなにも言えなくなってしまった。

「君には関係のないことだろう?」

厳しい口調で言われて梨花さんの表情が一瞬強張った。

「ねぇ、樹、今夜の私の演奏どうだった? そこの彼女よりよかったでしょう? 私のほうが――」

梨花さんは水城さんのご機嫌を取るように愛想笑いをして彼に詰め寄った。

「梨花さん、意地の悪さは演奏に影響しますよ」

「な、なによそれ……どういう意味?」

梨花さんの表情からすっと笑顔が消え、私をキッと睨んできた。

「演奏中ずっとなにを考えてましたか? 今夜はいつもの梨花さんのピアノじゃなかったみたいに粗が目立ちました。心ここにあらずって感じで」

おそらく、梨花さんは個室で私たちの様子が気になって仕方がなかったのだろう。お客さんは食事や話に夢中になっていてわからなかったかもしれないけれど、梨花さんが何度もミスを連発して乱れた演奏をしていたことに、私は個室からでも気づいていた。