偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

「彼女の気ままな性格にはほとほと困ってるんだ。なにか言われたか?」

「いいえ、大したことは……でも、梨花さんのピアノはいつ聴いても素敵ですし、私は嬉しいです」

「君は優しいんだな。俺も今仕事が片付いたところなんだ、時間に間に合ってよかった」

水城さんは腕時計で時間を確認する。

時刻は十九時。

もう、優香も川野さんも店に来ている頃だ。

「今夜の君、すごく綺麗だ」

歩き出そうとしたとき、水城さんがそっと私の耳元でそう囁いた。改めて言われると気恥ずかしくて照れてしまう。

「水城さんも、素敵ですよ」

夏らしくグレーのスーツに爽やかなライトブルーのネクタイがきまっている。

「ありがとう。でも、いつもの仕事の恰好だぞ?」

いつ見ても、彼は本当に素敵で、自分の恋人であることが信じられないくらいだ。

「さ、行こうか。ゆったりと食事ができるように個室を用意してあるんだ」

「ふふ、楽しみにしてます」