偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

川野さんのお兄さんと会うのは初めてだったけれど、川野さんと同じように柔らかな雰囲気を持った優しい人だった。

シオンは不安なのか、診察台に乗って体勢を低くしてじっとしている。

「少し脱水はあるけれど、血液検査の数値も問題ないし、さっき固形のご飯をあげてみたら全部完食したよ」

検査の結果を聞いて、私は心の底から安堵してへなへなとしゃがみ込んでしまいそうになった。

「よかった、もう心配で……」

「うーん、考えられる原因は、いきなり飼い主さんがいなくなってストレスを感じちゃったのかもしれないね、人間だって寂しいときや悲しいときに食欲がなくなるだろう? 特にこの子はそういうのに敏感みたいだね。今朝、嘔吐してたって言ってたけど、それからは?」

「いえ、一回だけです」

「何度も異常に吐くようなら少し心配だけど、今日一日安静にしてまた様子がおかしいようなら再診に来てください。けど、おそらく明日には調子が上がってくるんじゃないかな?」

お兄さんはそう言ってシオンの頭を撫でた。

「ふふ、黒猫ちゃんにはやっぱり赤い首輪が似合うな、あまり心配かけるんじゃないぞ?」

ニャーン!

シオンはまるで「わかりました!」というようにひと鳴きした。朝の弱々しい鳴き声とは違う鳴き声を聞いて、私は胸を撫で下ろした。