「謝恩会のとき、お父さんと話している君の顔が悲し気だった。俺は愛美だとわかっていたから……君の気持ちを考えると複雑だったよ、辛かったな」

――彼女、少し疲れているみたいで……少しロビーで休ませて頂いてもいいですか?

そうか、だから水城さんは私に気を遣ってそう言ってくれたんだ。

悲し気な顔をしていたと言われて、自分ではそんなつもりはなかったけれど、あのときは自分のことでいっぱいいっぱいで彼の優しさに気づけなかった。

もう、そんな風に慰めないで欲しい。そんな風にされたら……きっと泣いてしまう。けれど、水城さんの腕の中だけは、私が唯一泣くことを許される場所のような気がした。そして、堪えていた感情が涙となって顔を濡らした。

「いつだって俺は君の味方だし裏切らないと誓うよ。俺に君を守らせてくれ」

この世の中にそう言ってくれる人がいたなんて、嬉しくてたまらなかった。

「はい、ありがとうございます」

安心したら、ふっと力が抜けてそれと同時に強烈な睡魔が襲ってきた。まだ目を閉じたくない。こうして水城さんを見つめていたいのに、どんどん瞼が重みを増してくる。

「ずっとこうしてるから、ゆっくり眠るといい」

父のことを思うと嫌な気分になる。だから、水城さんに抱きしめられて、幸せの気持ちに包まれたまま眠ってしまったほうがいい。

唇に水城さんから落とされたキスの感触を感じながら、私は穏やかな眠りに落ちていった――。