偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~

よく私はピアノ演奏が終わると、カウンターで飲みながら、叔父と他愛のない話をよくする。けれど、そんな光景を水城さんが勘違いしていたなんて、私はなんだかちょっと嬉しかった。

「まぁ、君に踏み込めなかった本当の理由を言うと……」

それから水城さんはバツが悪そうに言葉を濁しながら話を続けた。

「ただでさえ、ストーカーに着け狙われて嫌な思いをしているというのに、君の心中を考えたら……自分の気持ちを押し付けるみたいで二の足を踏んでしまったんだ。だからこんなややこしいことになったんだけどな」

水城さんは苦笑いをして、ハァとまるで自己嫌悪しているようにため息をついた。

実際、まだ水城さんだと知らなくて、イルブールの紳士にいきなり店で声をかけられたら驚いて言葉も返せなかったかもしれない。本当は嬉しいのに。

なぜなら私はそれをうまく表現する術がわからなかったから……。

「水城さんは何も悪くありません。テラス席でワインを飲んでいる紳士が、まさか……水城さんだったなんて、だから初デートで待ち合わせのレストランで水城さんを見たとき、すごく驚きました」

「え? それって、どういう――」

「私も、水城さんのことずっと見てたんです。ピアノを演奏しながら、今夜は来ないのかな? 来るのかな? とか……」

そう言ってしまってからハッとする。考えもなしに自分から“私も水城さんに気があります”と言っているも同然な発言をしてしまった。そのせいで水城さんは意表を突かれたような顔をしている。