イルブールでいつも見ていた紳士がこうして今目の前にいる。水城さんは、優香としてじゃなく愛美として私のことを見てくれていた。しかも、初めからだったなんて信じられない。

「君と映画デートしただろう? 君もホラー映画が好きだって妹さんに言われたんだよ、だから良かれと思ってあの映画に連れて行ったけどさ……結果的にすまないことをした」

申し訳なさそうに表情を曇らせる水城さんに対し、私はブンブンと首を振った。

「優香は結構適当なところがあるんです。私、正直ホラーは苦手で……それに、初デートのときに友達とパリメラによく行くって言っちゃいましたけど、本当言うと……あの時はまだ一度も行ったことがなくて……あ、でも水城さんと会った後にひとりで行きました。そこで、梨花さんと初めて会ったんです。私こそ、嘘を言ってごめんなさい」

今更、こんなこと言ってももう遅いけど、ぺこりと頭を下げて必死に弁明する私を水城さんはクスッと笑った。