「水城さん?」

思わず遠い記憶の回想に耽っていると、彼女が怪訝な顔で俺を見つめていた。

「あ、ああ、すまない」

気を取り直してひとくちワインに口をつける。

「それで、俺は君のお姉さんが優香として振舞っているのを知っていて、知らぬ振りをすればいいんだな?」

「……はい」

「そして、君のお父さんになにか聞かれた時は、口裏を合わせる。ということか?」

「そういうことです」

彼女の策は完璧といえるものではなかったが、俺も姉思いの彼女になんとなく協力したくなった。それに、イルブールの彼女と今度こそ接触できると思うと、俺にとっても案外悪い話じゃない。

話がしてみたい。一緒に笑い合いたい。きっかけはどんな形であれ、この彼女が言うようにもしかしたらその先だって……。

そんな打算的な思いが欲となって俺をその気にさせた。

「私、愛美と今一緒に住んでるんです。だから、ここで話した内容の擦り合わせもバッチリできますから、そこは心配しないでください。さっそく今週末にでも愛美と初デート決行しませんか? あ、これ愛美の連絡先です」

まったく、用意周到な妹だ。彼女みたいな人は経営者に向いている。アルコン広告社でOLをしていると言っていたが、もったいないとさえ思う。