叔父はそれまで俺が会社を継ぐことを信じて疑っていなかったが、国立大学を卒業し、イタリアへ渡ると、将来自分の店を持ちたいという気持ちが強く募っていった。

叔父の会社は精密機器を扱う会社で、俺が望んでいる業種とはまったく異なった。イタリアから帰国し、自分の会社を持ちたいと思い切って打ち明けると、叔父は激高し人が変わったようになった。叔父を裏切ってしまった後ろめたさに苛まれ、やはり夢を諦めるべきか迷っていた時、弟たちがそれぞれ叔父の会社を継ぐと言い出した。

――兄貴には本当に感謝しているんだ。だから、今度は俺たちが恩返ししなきゃなって。
――叔父さんの会社は俺たちが継ぐよ、だから兄貴には自分の思うとおりに生きて欲しいんだ。

弟たちにはどんなに感謝してもしきれなかった。だから、片時も休まず仕事に没頭し、自分で立ち上げたパリメラを今では一部上場企業にまで成長させた。

――なぜ、会社を継がなかったんだ? 今でも気持ちは変わらないのか?
――一度決めたことは、必ずやり遂げたかったんです。
――一度決めたこと、か……お前の初志貫徹主義は父親そっくりだな。兄もそう言って、親父の会社を継がずに反対を押し切って自分で会社を立ち上げたんだったな。

昔、叔父が俺の店にふらりと現れて、何年かぶりにそんな会話を交わした。そして、叔父は小さく俺に笑ってひとこと『人の上に立つ以上は必死で頑張れよ』と言った。

姉には幸せになって欲しい。という彼女の気持ちは、あの時の弟たちと同じなのかもしれない。