「小原さん!バレー部行こう!」

ココ最近、山岸さんのクラス突撃が日常化しつつある気がする。
周りの人達だってなんか慣れて来ているし。

「いいけど、扉は静かに開けるものだよ。」
「あ、ごめんね。」

荷物を持って、山岸さんの方へ行く。
窓の外を見ると、バスが止まっていて、東高のバレー部が見えた。

「もう来てるっぽいね。」
「あ、本当だ!なら早く行こう!」

山岸さんに手を引かれて、走って体育館に向かった。



体育館に着いてからは、忙しかった。
タオルを用意して、飲み物を用意する。
まだ出来ていなかった、ネット立てなども教わりながら手伝った。

「わりーな小原。ネット立てまで。」
「いいよ別に。手伝うって昨日言ったし。」

周りを見渡すといつもの部活よりも人の多い体育館。ギャラリーにも何人か…と言うより女子が沢山来ていた。
そろそろ仕事も終わったし、山岸さんと一緒に私もギャラリーに上がろうかな?

「あ!いたー!やっぱり見間違えじゃなかった!!」

体育館前の廊下で、大声が聞こえて、思わず振り返る。
そこには東高の男の子が立っていた。
ジャージに入ってるラインが青だから確か1年生。その子はこっちを指さしている。
周りを見てみるが私以外には誰もいなかった。
私を指してる?でも私はあの子のこと知らないし。

「あの!先輩って小原日向先輩ですよね!?」

あ、確実に私ですね。

「え?あ、うん。私が小原日向だよ?」
「ファンです!!」
「うぇ!?」

男の子は猛ダッシュで走ってきて私の手を取った。
ファン?え、ファンってなんだっけ、てかこの子誰!!

「え、ちょっと待って!?ファンって何?」
「僕!先輩の事、選抜大会で見て。先輩のプレイに憧れてリベロになったんです!」
「選抜…ってまさか」
「先輩、中二の頃女子選抜で全国優勝してますよね?僕!姉が先輩と同じチームで応援に行ってたんです!水谷玲佳って、覚えてますか?」

水谷…玲佳。
確か、同じ東京選抜で、北中のセッターだった子だ。

「あ、そっか…玲佳の弟さん…」
「はい!あの、今回は女子バレー部も一緒に練習するんですか?だったら僕、レシーブ教えて欲しくて…」
「ごめん。バレーはもう、やってないんだ。」
「え…」

暫くの間、沈黙が走る。
私たち以外誰もいない空間。そう何分も掛かってないはずなのに、もう何十分も経ってる気分だ。

「小原さーん!どこー?」

体育館の方から山岸さんの声が聞こえてくる。私はその声に弾かれたように顔を上げてそっちに行こうとする。
でも行けなかった。水谷くんが腕を掴んだからだ。

「待ってください!なんで辞めちゃったんですか?勿体ないですよ!
僕!先輩のプレイが本当に好きで!」
「やれるわけないじゃん!」
「それってどういう…」
「あ、いや。その…3年の、引退試合直前に、足壊しちゃって…それ以来バレーはやってないかな…」

さっきとは違う、気まずい雰囲気が漂う。
そういえば、さっき山岸さんが私を探してたはず。そっちに行かないと。

「そんなことで…辞めちゃったんですか?
先輩、選抜で全国優勝してるんですよ?」
「あれは、周りのみんなが強くて…」
「そんなことありません!先輩は、絶対にボールを落とさなかった。どんなに取りずらいボールが来ても、姉さんのところにボールを上げて。」
「小原。」

急に、水谷くんと私以外の声が廊下に響いた。声のするほうを見ると、体育館の扉に石井くんがいた。

「山岸が探してた…
って東高の奴じゃねーか。」
「どうも…」
「ネットとか立て終わったから、もう中入って準備運動できるぞ。」
「あ、はい。あの、小原先輩!」
「小原、山岸が探してるから行くぞ。」

石井くんが、水谷くんを遮るようにして、私の腕を掴む。いつの間にか、水谷君は私の腕を離してたみたいだった。