「双葉さん。今夜の納涼会のイベント参加してね。」
「え?」
主任に声をかけられて樹(いつき)は動きを止めた。
「イベントでクイズ大会するらしいのよ」
「そういうの苦手で。」
「これは業務だと思って。もう名前も入ってるからお願いね?」
「・・・はい。」
有無をいわさない上司の態度に樹は返事しながら首元のネックレスを触った。
そして自分のなかのもやもやとした気持ちを深呼吸して忘れようと再び業務に戻った。

「今回のイベント若社長も来るらしいわよ?」
「なんせ4月に社長になって初めての会社のイベントだものね。」
「若社長の顔も一回しか見たことないわ。しかも遠くから。」
「本当は医者になりたかったらしいわよ?」
「頭はいいってことね。」
そんな社員たちのうわさにも樹は興味を持たず作業を進める。
社長に関してだけではない。樹は必要以上に他人に興味を持たない。

・・・持たないようにしているというほうが正しいかもしれない。