一夜からはじまる恋

病室で眠る樹を見つめ手を握りながら、樹のことをまだまだ自分は何も知らないことにもどかしさを感じた。

生年月日も血液型も知らなかった。保険証の場所も、通っている産婦人科も分からなかった。

家族の連絡先も分からない。

家族じゃない自分には病状を聞くこともできない。
ただ元医者としての知識で点滴している薬の成分を見て樹のお腹にまだ赤ちゃんがいることしかわからなかった。

今のままじゃ、守りたいと自分がどんなに思っても、樹もお腹の子も守れない。

湊は治療のためにと外された樹のネックレスに視線を移した。