「社長、今夜の納涼会にはご出席されますか?」
そう声をかけられた高瀬湊(みなと)は大きな机の上の書類と戦っていた。
「どう思う?」
「先代は出席されていました。」
「そっか。顔出さないわけにはいかないな。」
「承知しました。着替えを用意しますね。」
湊に声をかけているのは社長の専属秘書の石川京助。湊を幼いころから知っていて湊にとってはもう一人の父のような存在だった。
「ありがとう。」
そう言って京助に笑う湊はまだどこか幼さの残る顔をしていた。
「いいえ。」
京助は社長という生まれ持った運命に逆らおうとする湊も、現実を受け入れて懸命に努力する湊も見てきた。だからこそひそかに息子のように思っている。