(悠介Side)

「薔子!!」

目を閉じて動かなくなってしまった彼女。

呼びかけに応えることなく、静かに俺の腕の中で……

「……寝てる?」

気持ち良さそうな寝息が聞こえ、俺は胸を撫で下ろした。

なんだ、疲れて寝てしまっただけか。

……キス逃げをして。

「……兄さん。いる?」
「ああ」
「話があるんだ。入ってもいい?」
「俺の部屋じゃないけど…どうぞ」
「お邪魔しまーす」

弟はネクタイを緩めながらソファに座った。

「疲れた〜。あれ? 薔子ちゃん寝ちゃったの?」
「……お前、今まで呼び捨てじゃなかったか?」
「え? あ、そうだっけ?」
「……お前らしくない」
「そうかなぁ?」

明らかに様子がおかしい。

「兄さん。薔子ちゃんにキスされた?」
「……キス逃げされた」
「それはそれは……よかったね、兄さん」
「どういう意味だよ!?」
「契約はなかったことになった。じいちゃんと薔子ちゃんのおかげだね」
「宗、説明して」
「……わかってるよ」

弟の話によると、
弟の中にある悪魔の力が消滅し、
一番偉い悪魔にじいちゃんが説得した結果、俺と悪魔の契約はなかったことになったらしい。
そして、薔子が俺にキスしたことによって、俺の中にあった契約の証が消えた。

つまり俺は、『悠介』に戻ったということになる。

「薔子ちゃんが倒れちゃったのも、『悠介』の記憶が一気に入り込んできたから。『悠介』はずっと生きていたことになってる。薔子ちゃんの許婚は僕じゃなくて、兄さんだ」
「……ありがとう、宗」
「僕は何もしてないよ。兄さんが元に戻って本当に良かった」

泣いている弟につられて俺も泣きそうになる。

涙がバレないように彼を抱きしめて、もう一度「ありがとう」と言った。