僅かに揺れる四足竜車の中で、私は膝を抱えていた。
 幾人かが私を気遣うような目線を送り、幾人かが怪訝そうに私に視線を送る。だけど、私は、大丈夫ですよ。なんでもありませんよ――なんて笑えない。

 あんなに優しかった人達を殺すなんて――。

 反対側の席に座る風間さんは何事もなかったかのような顔をしていた。その態度が腹立たしくて、唇を噛んだ。私は憎しみと軽蔑を込めて風間さんを睨んだ。

 なんでそんなことをしたのか、理由は分かってる。
 入国証を手に入れるためだ。
 入国証がなければ、瞑に渡れなかったのは知ってる。多分入国証がなければ、功歩にだって行けないんだろう。

 おかしいとは思ってた。

 なんとかしますから――兎様で、そう言ったときの風間さんは何か企んでるような気がしてた。
 貞衣さん達と逢ったときに、急ぐはずなのに同行して、どうしたんだろうと疑問にも思った。
 なのに、私は何も気づかなかった……。
 最初から、風間さんが貞衣さん達を殺すつもりだったことにも、微塵も気づこうとしなかった。そして、風間さんは山賊の言ったように、この世界の暗黙のルールとやらで、貞衣さんと晴さんを殺したんだ。入国証なんかのために!
 殺すことなんて、ないじゃない。どこにもない。

 風間さんが解らない。
 山賊(ひと)が死んでも平気で仕度を始められる、この世界の人間が解らない。

 どうしてみんな平気でいられるの。
 どうして人を殺すの。
 山賊なら死んでも良いの。当然なの? ――こんな世界、大嫌い!

「……帰りたい……!」

 押し殺した声は、情けなく震えた。